小学校受験では、私立、国立ともに製作課題を出す学校が多いです。「制作」と書く人もいますが、どちらにしても要は工作のような課題だと思ってよいでしょう。ただ、その採点基準には注意が必要です。単に出来上がりの良し悪しで判断されるのではなく、そこに至るまでのプロセスが重視されます。
そこで、小学校受験の工作について、どんな内容の課題が出されるのか、また、どんな対策が効果的なのかといった疑問をお持ちの親御さんのために、課題の内容や評価ポイント、対策にぴったりの問題集についてなど詳しくお伝えします。
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小学校受験の工作・制作課題とは?
「工作・制作課題」と聞くと、つい作った作品を評価されると思ってしまいます。しかし、小学校受験では完成品のクオリティーはそれほど重要ではありません。そうではなく、それを完成させるに至ったプロセスが重視されるのです。
そもそも受験での課題では、受験生全員が同じ道具と材料を作って工作します。ですので、それほど完成後のクオリティーに大きな差が出ることはないのです。それより、それを作るために具体的にどんなふうに手を動かしたかを見ることの方が、手先の器用さがどの程度のものなのか評価しやすいと言えるでしょう。
ちなみに、工作での手先の器用さのことを受験では「巧緻性」とも言いますが、要は、この言葉が示すように、手先を巧みに操って緻密な作業ができる技能のことです。また、工作のような課題だけでなく、服をきれいにたたんだり、雑巾を絞ったりという生活上の作業能力を審査されることもあります。
製作課題で何が評価される?
製作課題での審査ポイントは上記のとおりですが、それをしっかり判断するには具体的に次に示す12種類の動作が鍵になります。つまり、これらの動作をスムーズにできるようになることが、小学校受験の製作課題をパスする秘訣です。
たたむ
文字通り、服などをたたむ動作のことです。受験時は、実際に服やタオルなどを子どもたちにたたませることもあります。日ごろからお手伝いの一環として家庭で練習しておくとよいでしょう。
タオルのようなふつうにたためる簡単なものだけでなく、ボタン付きの服や、コートやカッパなどかさばるものをたたむ練習もしておくとなおよいでしょう。
包む
布で箱などを包む動作が審査されます。慣れないとなかなか難しい作業です。実際に弁当箱などを包む課題が出る学校もあるので、これも日ごろの練習が鍵になるでしょう。
絞る
雑巾を絞ることをイメージするとわかりやすいでしょう。これも「たたむ」、「包む」と同じく生活に必要な作業です。雑巾を絞るには、手先の器用さというより腕の力が必要なので、やはり日ごろからやっておく必要があるでしょう。
ねじる
ドライバーなどを操る際に必要な動作が「ねじる」です。小学校受験ではそう難しい動きを要求されることはないので、家庭での練習は簡単なもので大丈夫でしょう。傘の柄の部分を片手でねじる練習で上手になります。
つまむ・通す
糸やひもをつまみ、穴に通す動作です。受験では、見本図が示され、その図と同じになるように、ひもをつまみ、穴に通し、穴から出たひもをつまみ出すという作業を行うことになります。
こねる
こねる動作は粘土で行います。粘土が好きな子ならすでに鍛えられている技能ですが、そうでない子だと、いきなり粘土課題を出されると戸惑うことがあります。日ごろから粘土で遊ばせておくのが対策です。
結ぶ
ひもなどを結ぶ作業も注目されます。5歳児で蝶結びはまだ難しいかも知れませんが、できれば固結び、玉結びとともに蝶結びまでできるようになっておきたいところです。ふだんから紐靴を履かせて毎日練習するようにしましょう。
貼る
貼る動作は、紙と糊を使って台紙に貼る作業で評価されます。適度な量の糊を手に取り、それを紙に伸ばし、台紙に乗せて指先や手の平で押さえるという一連の作業がスムーズにできるようになっておくことが望ましいです。また、糊は1種類でなく、水糊、壺糊、スティック糊の3種類とも使えるようにしておきましょう。
ちぎる
紙を細かくちぎったり、折り目に沿ってきれいにちぎったりといった「ちぎる」動作も重要です。折り紙などで練習しておきましょう。また、単に紙をちぎるだけではおもしろくないので、後で紹介するちぎり絵の問題集などを使うのもおすすめです。
切る
ハサミで紙などを切る動作です。「正しくハサミを持てるか」、「正しい向きで刃を当てることができるか」といった点が評価されます。紙の折り目に沿ってまっすぐ切る練習をしておきましょう。
折る
紙を折る作業ですが、ポイントはきれいに折れることです。乱雑に折るのではなく、紙の端と端をきれいに合わせて折れるようにしておきましょう。
子どもにはなかなか難しく、イライラする作業です。作業を細かいステップに分け、一つずつ教えていくのがよいでしょう。
塗る
色鉛筆やクレヨンなどで色を塗る作業です。塗り絵やお絵かきがそのまま練習になります。
ただし、色を塗るだけといっても、子どもの発達度合いによっては、どのぐらい力を入れればよいのかその加減がまだわからないこともあります。そういう場合は、先に「絞る」や「こねる」などの練習で手や指のトレーニングをするとよいでしょう。
どんな課題が出されるのか
私立小学校、国立小学校を問わず、製作課題はどの学校でも出題されます。しかし、どんな課題が出されるのかは学校ごとに違っています。とはいえ、課題の内容は違っても、審査される技能は同じですので、先に述べた動作をしっかりトレーニングしておけば大丈夫です。
一例として、2017年の早稲田実業学校初等部で出題された製作課題を紹介します。
机の上に台紙と用紙が重ねて置いてあります。その横は、鉛筆、糊(壺糊とスティック糊)、新聞紙、お絞りが入ったトレーです。用紙には点線や星が描かれているので、子どもは鉛筆でその点線をなぞって星をつなげていきます。全部なぞったら、糊を使って用紙を台紙に貼ります。その際、新聞紙を下に敷くようにという指示付きです。
製作課題の練習にあたってのポイント
もともと図画工作の好きな子どもなら、練習自体も楽しくできるでしょう。しかし、そんな子どもばかりではありません。また、ものづくりは好きなのに上手に作れない子もいます。大切なのは、本人がやりたくないのに無理にやらせようとしないことです。子ども自身が楽しんでできるように、練習では以下のポイントに注意してください。
自分もできるという実感
問題集を与えて最初から完璧にやることを求めても、それは無理です。工作が得意でない子なら、拒否反応を起こしてしまうこともあるでしょう。そもそも完成品を評価するのが製作課題の目的ではないので、子どもの「自分もできる」という感情を大切にしてあげてください。
そのためには、受験の直前にあわてて対策するのではなく、もっと以前からちょっとずつ課題の練習をするのがおすすめです。練習では、子どもが自分でできると思わせるような、ちょっとした仕掛けを作るとなおよいでしょう。
スモールステップに分解
工作が得意でない子が「自分でもできる」と実感するには、一連の作業を小さなステップに分解してあげることが大切です。受験では一連の作業を一人でスムーズにできる必要がありますが、最初からなかなかうまくいきません。
たとえば、ハサミで紙を線に沿って切り、切った紙を糊で台紙に貼るという一連の作業なら、「線に沿って紙を切って、切ったら台紙に貼って」などと一気に言ってもできる子は少ないでしょう。そうではなく、「ハサミを持つ」、「刃を立てて紙に当てる」、「紙を切る」と小さなステップに分解し、ステップを一つずつクリアすることを目指すのです。ステップをクリアするごとに大きく褒めることで、本人も楽しいですし、自分にもできるという自信になります。
「少し難しいかな」と思うような作業をさせる場合、このようにプロセスを分けて、達成すべき目標を細かく設定することに注意してみてください。
最終目標は1回説明しただけで一人で完成させられること
慣れないうちは、上記のようにスモールステップで練習していくとよいですが、ある程度できるようになったら受験本番を意識した練習を始めましょう。
受験では、最初に一連の流れを指示されたら、あとはその通り自分一人で完成まで作業しなければなりません。つまり、一連の流れを把握し、それを記憶できるようになっておく必要があるのです。スモールステップでできるようになったら、ステップの幅を徐々に広げていき、いずれは最初の指示を聞いただけで、流れを理解し自分で最後まで作業できるようにしましょう。
制作・工作の問題集の選び方とポイント
小学校受験の製作課題用の問題集は数多く出ていますが、そのなかからお子さんの受験にぴったりの問題集を選ぶには、以下のポイントを押さえておいてください。
子どもが楽しめること
製作課題のポイントを網羅したような問題集は数ありますが、大切なのはお子さんが楽しんで練習できることです。本を見た時につまらなそうな外観だと、お子さんはきっと「作ってみたい」とは思わないのではないでしょうか。
それを考えると、子どもの興味を引く作品がカラー写真で掲載されている問題集がよいでしょう。文字だけだと、教える方の親はよくても、お子さんに楽しいという気持ちが起こらず、問題集を見るだけで「また練習か」といやになってしまうこともあります。
受験のポイントを押さえていること
もちろん受験用の問題集ですから、出題ポイントをしっかり押さえているものを選ぶことも重要です。製作課題で問われるのは、上述したように12のポイントからなる巧緻性ですから、そのすべての技能をトレーニングできる問題集を選びましょう。
季節やイベントに即した作品が満載
小学校受験の製作課題では、単に工作をするだけでなく、季節やその時期のイベントに絡めた問題が出ることもあります。ひな祭りやこどもの日、クリスマスなど好きなイベントに関連した作品もあるので、そういう自分で作りながら楽しく学べる内容の問題集がおすすめです。
小学校受験の制作・工作のオススメ問題集
上記のポイントを押さえた問題集をいくつか紹介します。どれもおすすめですが、受験する学校やお子さんの個性に合わせていくつか選んでみてください。
『ちぎって貼ろう』
小学校受験で知られる「こぐま会」出版の問題集です。名前の通り、紙をちぎるという動作の練習に特化しています。大人にとっては簡単ですが、指示通りにちぎるのは小さな子どもにとっては難問です。自分のイメージするサイズや形に紙を丁寧にちぎる作業は、何度も繰り返して身につけるしかありません。
この本は、そういう目的にぴったりの教材です。受験頻出の課題を10問収録し、台紙10枚、折り紙20枚がセットで付いています。ちぎる動作のトレーニングはこの教材があれば大丈夫でしょう。
『こぐま かみこうさく』
こちらも「こぐま会」出版の教材で、タイトルの通り紙工作の問題が収録されています。実際に小学校受験で出題されたことのある問題ですから、受験対策に最適です。
紙で立体を作るための課題では、平面の展開図の理解も深まるような内容です。手先の器用さだけでなく、お子さんの空間把握能力を磨くのにもよいでしょう。
『3・4・5歳児の行事&季節の製作アイデア』
受験用に特化した問題集ではないですが、製作課題で頻出の季節に関するイベントに関係した作品がたくさん作れるようになっています。4月から9月までと、10月から3月までの2冊に分かれており、節分、ハロウィーン、クリスマスなど月ごとのイベントをイメージした作品を多数掲載です。工作だけでなく、お子さんの季節についての知識を深めるのにもよいでしょう。
問題集を使って親子で楽しく製作課題の練習を
いかがだったでしょうか。小学校受験の製作課題では、できあがった作品よりもそれを作るまでのプロセスが重視されます。上に挙げた巧緻性の12のポイントを踏まえ、紹介した問題集も使いながら、それぞれの技能を楽しく身につけていきましょう。
小学校受験情報教育ラボでは、小学校受験に関してのさまざまな情報を発信しています。今回は製作課題中心にお伝えしてきましたが、小学校受験のためのおすすめの塾の紹介などもありますので、受験のための情報を集めている方のご参考になれば幸いです。